パワハラとは?厚生労働省の指針案から見る事例と定義

雑学

随分前から「パワハラ問題」に関して、取り沙汰されるようになってきましたね。

企業では管理職向けに「パワハラ防止研修」のようなものが行われて、管理職のパワハラ防止への推進と対策が進められています。

それだけ、企業にとっても大きな問題となってきています。

ただ、具体的な定義や線引きがされていないので、どこまでがパワハラでないのかがわかりづらいのが実状です。

そこで、厚生労働省がパワハラの定義を線引きするための指針案を発表したので見ていってみましょう。

※本記事は、2020年1月3日時点の記事であり、お読みの時期によっては誤っている可能性がありますので、ご自身で情報の裏取りをお願いいたします。また、「パワハラの定義は?」の章は私個人の意見を記載しているため、法律的、社会的な正しさを補償するものではありません。※

パワハラとは?

よく言われている「パワハラ」とは「パワーハラスメント」を省略したものです。

ポイント

この言葉は「パワー(力、権力)」「ハラスメント(いやがらせ)」の2つを組み合わせた言葉で、「社会的な地位の強い者」による「自らの権力や立場を利用した嫌がらせ」を意味します。

2000年代前半からこの言葉が使われ始め、社会的にも大きな問題となりました。

現在では、加害者は「名誉毀損」や「侮辱罪」など刑事罰にも問われる場合もある大きな問題となっています。

また、パワハラは2019年5月29日に成立した「労働施策総合推進法30条の2」でも定義されるようになり、企業にとってパワハラ防止が義務化されたことを意味します。

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない

改正労働施策総合推進法 第30条の2

上記の内容を分解してみると、キーとなるのは以下のとおりです。

ポイント

問題となる行為 :

優越的な関係(=社会的な地位の強い者)を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること(=業務上必要ではない嫌がらせ)

 

企業の義務:

上記が発生しない体制及び環境づくり

ここまではっきりとパワハラに関する定義が明文化され、更に企業に対して義務を生じさせた法律は初となります。

現段階では試行前で、大企業では2020年4月中小企業は2022年4月から適用されると報じられていますので、企業側も対応が急務となっています。

厚生労働省の指針案

パワハラに関しては、2019年10月21日に厚生労働省からも「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」が提示されています。

本素案では、パワハラに該当する例と該当しない例を6つのタイプに大別し、それぞれで示すことで、パワハラとなる範囲をより明確に定義する指針としようとしました。

  • 「身体的な攻撃」
  • 「精神的な攻撃」
  • 「人間関係からの切り離し」
  • 「過大な要求」
  • 「過少な要求」
  • 「個の侵害」

しかし、今回の素案では、「パワハラに該当しない例」を示したことで、「パワハラの範囲を矮小化し、労働者の救済を阻害しかねない」との批判を浴びる結果となりました。

日本労働弁護団も同日に「パワハラ助長の指針案の抜本的修正を求める緊急声明」を発表し、「弁解カタログ」となりかねない点を危惧している旨を発表しています。

パワハラ助長の指針案の抜本的修正を求める緊急声明

パワハラの事例紹介

実際にパワハラとして訴えられた際の判例をご紹介します。

パワハラとして認定されたものもありますし、パワハラでないと認定されたものもあります。

アークレイファクトリー

この事件は、派遣社員へのパワハラ事件として雇用主に対して損害賠償の支払いが命じられた事件です。

派遣社員のAさんは、雇用主側の管理者XさんとYさんのもとで業務を行っていました。

  • Xさんからの指示された作業を行おうとしたところ、Yさんからは作業を行わないように指示が入りました。
    Yさんの指示のもと作業を中止したにも関わらず、後日Xさんに命令違反として厳しい叱責を受けます。
  • 命令違反の叱責の際に、Xさんより侮辱や恐喝に類するような厳しい言葉が使用されました。
  • Aさんが体調不良により欠勤したい際に、Xさんらにより「仮病で休んだ」と非難されました。

上記のような状況で、まずは立場関係が見られました。

派遣社員と雇用主という関係性から、パワハラの定義となる「優越的な関係(=社会的な地位の強い者)」が成立しているものと見なされました。

さらに、叱責の際に厳しい言葉を使用したことも、適切な言葉を選ぶことが監督者側の当然に注意義務と判断され、「業務上必要かつ相当な範囲」を超えていると判断されました。

この2点から、本事件でのXさんとYさんの対応はパワハラに相当するとのことで雇用元に対して「使用者責任」を問い、損害賠償の支払いを命じました。

ゆうちょ銀行

本事件は、実際にはパワハラとは認められなかった事案となります。

従業員のAさんは、ゆうちょ銀行にて問い合わせ対応などの業務に従事していましたが、書類の確認もれと言った形式的なミスを多発してしまいます。

上司のXさんとYさんは、日常的にミスが繰り返される現状に強い叱責を繰り返し行います。

Aさんは日常的に強い叱責を受ける現状がつらくなり、Xさん、Yさんよりも上位の上司であるZさんに異動願いを出しましたが、その訴えは叶えられませんでした。

その状態が続いたことで、Aさんは最終的に自殺を図り亡くなってしまいました。

この判例では、強い叱責を受けた原因が注目されました。

強い叱責の原因は、Aさん本人の仕事のミスが多かったことに起因し、XさんとYさんが仕事中に繰り返されるミスを注意するのは「業務上必要な範囲」であり、社会通念上違法となるようなものではなかったと判断されました。

そのため、パワハラによる被害とは認められませんでしたが、代わりに企業側には「安全配慮義務違反」として約6100万円の損害賠償が請求されることになります。

上司の対応がパワハラではなく適した対応だったとしても、企業側に賠償請求が行われた例となります。

トナミ運輸

本事案は、従業員の内部告発を発端とした「過小な要求」に対するパワハラ判決が出た例となります。

従業員のAさんは、トナミ運輸で勤務する中で大手運輸会社50社が所属する事業者団体において闇カルテルが存在することを知りました。

ポイント
闇カルテル
同一業種内で競争を避けて価格の維持、引き上げ、生産の制限、販路の制定などの協定を結ぶこと。
独占禁止法にて禁止されている違法行為。

Aさんは営業所長や副社長に対して是正を訴えましたが、取り合ってもらえず、新聞社に内部告発をしました。

その結果として公正取引委員会の立ち入り検査が入り、闇カルテルは破棄とすることを公告し、事件は帰着しました。

しかしながら、内部告発をしたAさんは異動を命じられ、業務としては雑務のみで昇格も無く、三畳ほどの個室で仕事をし続けることになります。

本事案では、まず内部告発の正当性が問われました。

内部告発するにあたって、Aさんにも企業が被る不利益にも配慮する必要があったとして、事業所長と副社長へ訴えたのみでは内部努力が不足しているとも考えられました。

しかし、当時の役職を鑑みると管理職でもなく発言の影響力の弱いAさんの立場としては、十分な努力を行ったとして新聞社への告発は正当な行為と判断されました。

その上で、Aさんに行われた「異動」、「隔離」、「過小な要求」はいずれも内部告発への報復行動と認められパワハラと判断されました。

上記より会社側に1356万円の賠償金の支払いが命じられる結果となりました。

パワハラの定義は?

これまで実際に厚生労働省の指針案やパワハラの判例などをご紹介してきましたが、具体的にパワハラはどう定義できるのでしょうか?

この回答はおそらく誰にも不可能なのではないでしょうか。

例えば「被害者がパワハラと思ったら、パワハラだ」のような定義では、人によって指導ですらパワハラと感じてしまうこともあるでしょう。

判例にも出てきたような「社会通念上」「業務上必要かつ相当」というのは企業毎に、ではなく、さらに細かく「現場毎に」変わってくるといえると思います。

例えば、担当する業務を誤った際の被害範囲によっては、厳しく叱責する必要が出てくることもあるでしょう。

例えば、担当業務を行う人間の態度などによっても変わってくるでしょう。

パワハラというのは定義によって明確に判断できるものではなく、事案ごとに判断が必要になる至難なものだと理解する必要があるでしょう。

よって、これから企業に必要となるのは、パワハラと思った社員が気軽に相談し、第三者的に判断を下すことができる組織を用意することにあるのではないでしょうか。

もちろん、専門の組織を用意するのは難しいでしょうから、その場合は管理職がその立場を兼任することが多いのではないでしょうか。

企業として、労働者の雇用環境を害さない体制・対応が義務付けられた以上、当事者間での問題では済まなくなっています。

労働者が早い段階で上位者に相談し、対応が行える組織体制が企業に求められてきているといえるのではないでしょうか。

まとめ

今回は、最近取り沙汰されているパワハラについて、判例とともにご紹介してきました。

パワハラは結局のところ、明確な定義は難しくやはり事案ごとに対応を考えていく必要があるのが実情です。

厚生労働省の指針案が出ましたが、あまりにもざっくりとしているため、定義というには不十分です。

パワハラに該当しない例と挙げられているものでも、事案の背景や継続性、更に「社会通念上」適正だったかなど、多くの観点から考慮していく必要があります。

安易に考えることなく、企業全体での対応と解決体制が出来上がっていくことを望みます。

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